親が住んでいた実家を相続したくないために、相続放棄を選択する人が最近増えてきた様です。
近年は空き家を放置することに対する監視が厳しくなってきました。2021年の通常国会で、空き家対策に対する規制を強化する法律が成立し、相続後に空き家を放置することが難しくなりました。相続人が決まらないことを理由に長期の放置ができなくなりました。老朽化した家屋を取り壊すことを行政から求められる、危険な家屋の代執行をした際はその費用を請求される、といったケースも増えると思われます。
親が住んでいた家を相続すると、使い道がなくても固定資産税など税金を払い続けなければなりません。子どもがすでに住まいを別に構えていれば、借り手がない親の住んでいた家を相続する意味は薄れてくるのかもしれません。これは地方にある親の家だけでなく、都市近郊の一軒家でも、相続を望まないケースもあります。空き家問題はそれだけ深刻です。
○相続放棄をする際の手順
親が亡くなった後に子どもたちが財産を相続する場合、まず誰が相続するのか、相続人の特定が必要です。両親ともに亡くなり子どもが1人だけ場合は、容易に特定できます。子どもが複数いる、あるいはどちらかの親がまだ健在なときは、相続人同士で協議が必要になります。住んでいた土地と住宅は放棄したいが、金融資産がかなりあるので、すぐには決断できないかもしれません。資産総額と負債総額とを確認してから、必要な手続きを進めます。
相続放棄の手続きは、相続の開始(親の死亡の確認)の時点から、原則3ヶ月以内と決められています。各相続人が亡くなった人の居住地の家庭裁判所に、相続放棄を申し立てます。この3ヶ月間を「熟慮期間」と呼び、この間に何も手続きをしないと通常の相続、すなわち資産と負債の双方すべてを継承する「単純承認」をしたとみなされます。
特に親が借用証などを残していないかを、精査する必要があります。故人の資産の詳細を調査段階のときは、家庭裁判所に申し立てをして期間を延長できます。その際は、それなりに説得力のある理由づけと、故人の財産を凍結することが求められます。この間に親の遺品などを売却したり、相続人が隠匿したりしたことが裁判所にわかると、「相続放棄」が認められずに、すべて「単純承認」したと認定されます。
相続の方法には、大きく3つの方法があります。最も一般的な資産と負債をすべて継承する「単純承認」、資産も負債も継承しない「相続放棄」、負債の実態が不明のため、資産の範囲内で負債も継承する「限定承認」です。
親に借金があり、住んでいた家を引き継いでもほとんど資産価値がないなど、明らかに負債額が資産額を上回ると判断できるときには「相続放棄」が有力な選択肢です。ただし、相続放棄を選択すると、預金や有価証券などの金融資産を含めて一切を引き継ぐことはできません。
財産の実態は不明だが、資産より負債が多いと推定されるときは、「限定承認」が1つの選択肢になります。これも3ヶ月以内に家庭裁判所に申請します。
○相続放棄で権利が移転
実際に相続人が相続放棄をしたときは、相続権はどうなるでしょうか。例えば、両親の死後、子どもが複数おり、相続を希望する人と相続を放棄したい人に分かれた場合は、相続を希望する人だけで、資産と負債をすべて継承します。相続の順番は、まず第1順位が配偶者と子ども(もし子どもが亡くなっている場合は孫=代襲相続)になります。
配偶者と子ども全員が相続放棄をした場合は、相続権の第2順位の故人の両親に移ります。故人の両親は、すでに亡くなっていることが多いため、そのときは相続権の第3順位になる故人の兄弟姉妹(亡くなっている場合はその子ども)になります。
第1位順位の人が相続を放棄した場合は、次に相続権のある人へ、念のためその理由を伝えておくのが親切です。相続権が回ってきて、負債の内容を知らずに相続すると、後で「なぜ負債の実態を知らせてくれないのか!」となり、思わぬトラブルになりかねません。対象となる相続人が、相続する意思がないときは、各相続人が個別に相続放棄の手続きができます。全員が同時にするは必要ありません。
相続放棄を選ぶと資産は一切引き継げないため、もし放棄後に、多額の残高が記帳された預金通帳が見つかっても、相続放棄の変更はできません。そのため、負債が資産より多そうだが、額を細かく精査する必要があるときは、資産の範囲内で負債も継承する「限定承認」も有力な方法になります。
限定承認は、相続人が負債の返済に自己資金を使わずに済むというメリットがあります。しかし限定承認の手続きは、相続人全員で申し立てる、遺産目録を作成するなど、手間がかかる作業になるため、実際に裁判所が受理している件数は意外に多くありません。相続放棄は相続人が個別にできることと比較すると、手続きが煩雑だからです。
いずれにしても、かなりの負債があると思われるときの相続は、すぐに相続放棄を決めるのではなく、実態を慎重に調べることが重要です。
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