隣家からはみ出してきた木の枝を切り取ることができる――。4月1日施行の改正民法により、枝の切除に関するルールが大きく変わることになりました。
改正される前は、竹木の所有者に請求して切ってもらうか、自分で切るにしても竹木の所有者の同意を得なければならない、というルールになっていました。
そのため、竹木の所有者を見つけることができない場合や、見つかっても切除しようとしない場合は、枝の切除請求訴訟を起こさなければなりませんでした。
そして、裁判で勝った上で、強制執行の申立をし、竹木の所有者の費用負担で第三者に切除させるという代替執行という手続きをしなければなりませんでした。
しかし、民法が改正されたことで、一定の条件が揃えば、竹木の所有者の同意を得ることなく、越境した枝を切除することができるようになりました。
どのような条件が揃えば、竹木の所有者の同意なく枝を切ることができるのでしょうか。
2023年4月1日から施行される改正法でも、まずは竹木の所有者に対して枝を切除するように求めるのが原則となっています。
ですが、切除が期待することができない次の3つのいずれかの場合に該当すれば、土地の所有者は、隣地から越境してきた枝を、自分で切除することができるとされています。
(1)土地の所有者が竹木の所有者に催告したにもかかわらず相当の期間内に枝の切除を行わない場合
(2)竹木の所有者を知ることができず、または所有者の所在を知ることができない場合
(3)急迫の事情がある場合
台風などの災害により枝が折れて隣地に落下する危険が生じている場合や、地震により破損した建物の修繕工事で足場を組むために隣地から越境した枝を切り払う場合などが想定されます。
改正法が施行される前、つまり2023年3月31日以前から存在していた枝にも適用されます。
枝の切除を請求できるのは、土地を所有している人に限らず、借りている土地に枝が越境してきた場合も、枝の切除を請求したり、場合によっては自分で切除したりできます。
地上権者(工作物を所有するために土地を使用する権利をもつ人)や永小作人(小作料を払って他人の土地で耕作する人)も同じです。
枝を切るために、隣地の所有者の承諾を得ることなく、隣地に立ち入ることはできますが、あらゆる場合に立入りができるのではなく、枝を切るために必要な範囲内で、かつ、隣地の所有者や現に隣地を使用している人にとって損害が最も少ない日時、場所及び方法を選ばなければなりません。
したがって、わざわざ隣地に立ち入らなくても枝の切除が可能であれば、隣地を使用することはできないと考えられます。逆に、隣地に立ち入らないと、安全に切除できないといった事情があれば、隣地の使用が認められる方向になると考えられます。
また、隣地に現に住んでいる人がいた場合、現に住んでいる人の承諾を得る必要があります。
隣地を使用する場合は、原則として、事前に、隣地の所有者及び現に隣地を使用している人に対し、隣地を使用する目的、日時、場所及び方法を通知しなければならないとされています。
例えば、枝を切るために隣地のどこに立ち入る予定かを通知する必要があります。一方で、枝切りばさみで切るか、脚立を使うか、などの作業の詳細を全て通知する必要まではないと考えられます。
事前に通知することができないやむを得ない事情があるときは、使用を開始した後、遅滞なく通知しなければなりません。
この「やむを得ない事情」とは、例えば、早急に枝を切除しなければ自分の建物が損傷するおそれがあったり、調査をしても隣地の所有者が見つからなかったりする場合があてはまるとされています。
かかった費用と切り取った枝の取扱いについてですが、土地所有者は、不法行為(他人に損害を与えたこと)や不当利得(他人に損失を与えたこと)を理由に、竹木の所有者に対し請求することができます。
ただし、竹木の所有者が任意に支払わない場合は、裁判を起こす必要があると考えられます。
切った枝は、切除した人が所有権を取得することになります。取得する以上は、自分で処分しなければいけないということです。
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